0.6db優しく囁いて

水星note レコーディング日記8

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※写真は1999年頃。

細かい作業に突入している。例えばボーカルにしても「あー」なのか「んあー」なのかだったり、「おーー」なのか「おぅー」なのか、はたまた「おぉ〜〜」なのかを選別して見極め一つに纏める作業など。これぞ譜面では絶対に表現出来ない。

以前、超メジャーの日本人なら誰でも知っている歌の上手いとされているボーカリストのレコーディングに立ち会った事がある。それはそれは衝撃だった、何故ならあんなに上手い人が何トラックも歌い、その選別たるや…例えば…アイウエオと歌ったとして、全文字トラック違い…別々に5トラックを使ったりしていたのだ!

こうしてヒット曲は出来て行くのか…と唖然とした事がある。実際に数十万枚の大ヒットとなった。

有名演歌歌手は一回しか歌わない…かも知れないが、間違いなく御大がお帰りになった後、エンジニアは不眠不休の努力をしている筈なのだ。

上手いのになぜ?と思われるかも知れない。様々な理由があるのだが…大きな理由の一つに…

「マイクロフォンを経由して録音する」

って事がある。

つまり、いくら上手に歌ってもマイクに「乗って」無ければNGなのだ。特にボーカルのレコーディングではコンデンサーマイクと呼ばれる高性能マイクを使用する。マイク側からしてみれば、ちょっとの変化も見逃さない…マイクと口の距離、角度で音色が全く違ってくる。衣装の擦れる音まで記録されてしまう。そして、こんな事情は一般には知られてないから無編集では「あの人たいして上手くないわね」となってしまう。

御大は実際に歌が上手いし、上手くて当然なのだ。それをマイクやスタジオやエンジニアのせいで「下手な歌」にするわけには行かない。

エンジニアの心中察するに余りある。

てな訳で、今の自分は歌手でありエンジニアである非常に苦しい立場なのです。そしてこれに関しては知らぬが仏では無いのです。普段ライブで使うマイクで雰囲気の良い歌が録れたとしても、クオリティが何段も落ちてしまいアマチュアのデモテープみたいになってしまう。

友人のタコ焼き職人が、たこひとつひとつに食べやすいように包丁で切れ目を入れているという。それと同じだ。ストイックだからじゃない、そうしなければ生きて行けないからだ。

ただ僕は前述のシンガーのように、一文字ずつ寄せ集めるような事はしたくないと思っている。ワンテイクの無編集とは言わないが、やり過ぎたらボーカロイドだよね…。

そして、もし今4kHzの猫撫で声でいつもより0.6dB優しく君から誘われたら全てを投げ出してしまうかも知れないな…